ヒレかつサンドの「まい泉」が語る伝統と“サントリー効果” | ニコニコニュース



                                

 9月29日にオープンしたトリエ京王調布という駅ビルのテナントに、かつサンドで全国にその名を知られる「まい泉」のレストランも名を連ねている。表参道の駅近くに本店を構えるまい泉は、東急百貨店東横店などにもレストランを展開しており、トリエ京王調布店で12店舗目だ。

大企業傘下となったまい泉にたっぷり話を伺ってきたぞ

 もともと家業から発展する形で大企業の傘下となったまい泉が、どのような考え方で経営されてきたのか、そして今後どうしてゆくのか、いつか話を聞きたいと思い続けていた。ということで今回、まい泉の歴史、かつサンド、レストランの話題を中心に、たっぷり話を伺ってきたぞ。

「まい泉はもともと、上野の井泉から独立してできたお店です。最初は日比谷の10坪ほどの小さい店舗で、屋号も井泉でした」と、創業当時のことを教えてくれたのはマーケティング本部部長の西山由香さん。創業時の職人さんのひとりは井泉から独立する以前、映画『喜劇 とんかつ一代』で主演をした森繁久彌にとんかつの技術指導をした方らしい。きっと当時の井泉の中でも腕利きだっただろう。

「それで、名前をまい泉に変えたのは1978年、いまの青山本店に移ったときです。ただトレードマークは創業当時から変わらず使っております。井筒紋をアレンジしたもので、無限のマーク(∞)を重ねていることで社の末永い繁栄を願うものであるなど、さまざまな意味を込めてあるんです。会社の正式な社名も、『井筒まい泉株式会社』なんですよ」

 お皿やかつサンドの箱に書かれているあのマークに、そんな意味があったとは。ところでまい泉といえばヒレかつサンド。これも創業のころからあったのだろうか。

サンドイッチ伯爵も納得!? かつサンドの起源

「うちの名物のかつサンドも、日比谷の時代からございました。日比谷の店のすぐ隣が東京宝塚劇場で、そこに出ていらっしゃる女優さんたちが、手や口を汚さずにサッと食べられるものを、というリクエストから始まったと聞いております。観劇にいらっしゃった方も、幕間にお求めになったりされていたようですね」

 梅林やGINZA 1954など、銀座にもかつサンドが有名なお店があるが、なるほどそれらが夜のお店の土産として人気であったというのも、手や口を汚さない、というところに理由があったのかもしれない。

「そういった歴史を振り返りますと、かつサンドも最初はレストランからなんです。百貨店などではレストランとは別に売店の出店もしておりまして、現在は全国に62店舗ございます。全国の百貨店売店のおかげで、かつサンドと言えばまい泉、と思ってくださるお客さまが増えたことは大事にしていかなければならないと思っています。ただ、すべての源流にあるのはレストランですから、今後より多くのお客さまにレストランにいらしてほしいという思いも同時にありますね」

サントリーグループに入ってから出店がスピードアップ

 ところで最近、レストランの出店が増えているように見えるが、この意図はどのあたりにあるのだろうか。こちらはレストラン事業本部レストラン営業部の川村斉さんにお聞きしよう。

「出店は基本的には、お声をかけていただいたときに検討して、という形をとっております。東急百貨店の東横店、これが初めてのレストランの出店で1985年です。ほかに古くからのお店ですと、ルミネ荻窪店、さっぽろ東急店、ながの東急店、大丸東京店などは、2008年にサントリーの傘下に入る以前からのお店ですね。サントリーグループに入ってから出店がスピードアップしたのは確かですけれど、それ以前の路線は踏襲されています。もちろん家業から企業への変換によって、レストラン事業の国内外での展開などさまざまな側面でのメリットはありました。ただ実際には、百貨店売店が全国各地に増えたことで、レストランの出店を、と声をかけていただくことが増えたのかな、という感触を持っています」

まい泉さんが教えてくれた、黒豚ロースのおいしい食べ方

 多店舗展開をしていくとなると、気になるのは店舗ごとの質だ。人が違えば料理は変わってしまう。まい泉というブランドの味の維持は、どのようになっているのだろう。

「今回のトリエ京王調布店には、本店で働いていた職人をふたり連れてきています。この店舗では、彼らが中心になってまい泉の味を守っていってもらうことになりますね。また社内にパン粉付けマイスターなどの資格を設けて、これがうちの味である、ということに一定の基準を持たせています。これもレストランを展開していく上で大事になってくるポイントだと思っています」

 なるほど、たしかに実際に黒豚ロースかつ膳をいただいてみると、自社製のパン粉を使ったキツネ色の美しい衣は、剣立ちも良く、全体的な均一さを保ちながらも、とんかつの裏と表で微妙に厚みを変えているなど、本店同様のクオリティを見せてくれる。ちなみにお二人オススメの黒豚ロースの食べ方は、一口目はまい泉特製のスパイスソルトに軽くレモンを絞って、というところから、次に黒豚専用ソースを使って食べる、という順番。専用ソースはリンゴ、パプリカなど野菜・フルーツを中心にしたさっぱり目のソース。脂身が濃く、味が強めの黒豚にはぴったりだ。

気になる「まい泉のポークジャーキー」

 老舗のとんかつ屋が大企業傘下に、というニュースは当時とんかつ愛好家の間では驚きをもって迎えられたが、実際には意外なほど、それ以前と変わっていないようだ。そもそもサントリー傘下となったのも、創業者の後に経営判断できるものを、と考えたときに、まい泉のブランドを理解してくれるサントリーが適任であった、というだけであったとのこと。

 しかし今回お話を伺った以外のところで、例えばとんかつに適した豚肉を追求して誕生したオリジナルブランド豚「甘い誘惑」を作っており、そのとんかつを青山本店限定で食べられるらしい、あるいはその豚肉を使った「まい泉のポークジャーキー」という商品が今年の7月に販売開始された、など「ただのとんかつ屋」ではない動きを見せているのも確かだ。

「ただのとんかつ屋」でない側面と「老舗のとんかつ屋」である側面、両面の往復にこそ、まい泉のおもしろさがあるのかもしれない。



(出典 news.nicovideo.jp)