イギリス伝統料理スコッチエッグが人気再燃、日本式「カツカレー」アレンジも | ニコニコニュース



「スコッチエッグ」というイギリスの伝統料理をご存じだろうか? 一言でいうと、ゆで卵入りミートボールフライのこと。本場イギリスではピクニックのお供やパブ(イギリスの酒場)でのつまみなど、国民食として親しまれてきた。日本でも洋食やおふくろの味として食べられることがある。

今イギリスは、スコッチエッグのリバイバルに湧いている。近年、ガストロパブと呼ばれるパブ飯(パブで提供される食事)の美食化に伴い、イギリスは「スコッチエッグ黄金期」を迎えているのだ。

ロンドンでは「スコッチエッグ・チャレンジ」という伝統部門と創作部門に分かれておいしさを競う大会もあり、 地方都市では変り種のご当地スコッチエッグまで登場している。日本式の「カツカレー・スコッチエッグ」という創作料理までもあるほどだ。

そんなスコッチエッグは、どのように生まれ発展してきたのだろうか? 

「スコッチ」だけに発祥地はスコットランド?
スコッチエッグの「スコッチ」とは英語で「スコットランドの」という意味である。しかしスコットランド起源説は否定されてきた。

ほんの数年前までスコッチエッグ発祥の店と主張していたのが、ロンドンにある1707年創業の英王室御用達高級食品雑貨店、フォートナム&メイソンだ。今でも市内ピカデリー本店にある地下食品コーナーでは伝統的・創作的なスコッチエッグが誇らしげに売られている。

ただし、フォートナム&メイソンにきちんとした証拠が残るわけではない。英テレグラフ紙によると、同店が1738年に独自にスコッチエッグを発明した根拠となる内部文書は1950年代に盗まれたという。そのため同店は現在、「スコッチエッグはフォートナム&メイソン発祥」という主張を撤廃しているが、これまで同店お抱えのアーキビスト (記録史料の保管・研究をする専門職) や料理研究家は、「スコッチ」の意味を拡大解釈して、あれこれと「スコットランドの」以外の意味を仮説として提唱してきた。

フォートナム&メイソン発祥説の根拠が乏しくなった今では、スコッチエッグのレシピを含む料理本の中でも、1808年出版にロンドンで出版された、ルンデル夫人著『家庭料理の新しいシステム(新改訂版) 』が現存最古のものだ。

フォートナム&メイソンはスコッチエッグの「育ての親」あることに間違いないが、一方でスコットランド起源説を裏付ける資料も見つかっている。

英オックスフォード大学ウォルフソン・カレッジのグレイス・イーガン英文学博士に調べてもらったところ、スコッチエッグという呼称は、1699年発表のハリス作の演劇『愛の巡り合わせと見返り婦人』に初めて登場するというのだ。劇中の架空の登場人物トリックウェルの父はロンドンの偉大な商人で、スコッチエッグ、アイリッシュポテト、スパニッシュチェスナッツなどのヨーロッパ各地の特産品を売っていたという設定だ。資料内にレシピは含まれないものの、同演劇は前述の現存最古の紹介本より100年以上もさかのぼる。

「劇中でスペインやアイルランドの特産品と並びスコッチエッグが描写されていることは、それがロンドンよりはるか遠方の地スコットランド発祥ということを物語っている」とイーガン博士は述べる。

冷たい携行食? それとも温かい家庭料理?
イギリス国内では議論が白熱している。

スコッチエッグは、交通の要ロンドンにおける地方への長距離鉄道を利用する旅人のための携行食だった、とするフォートナム&メイソンに対し、料理史家アニー・グレイ氏は英ガーディアン紙で同店の携行食起源説をかたくなに否定している。彼女の主張は「スコッチエッグは、そもそも家庭料理だった」というものだ。

先ほどのイーガン博士は、前述の演劇『愛の巡り合わせと見返り婦人』の一場面から、発祥の地はスコットランドとし、食形態は携行食起源を事実上支持している。しかし「レシピを伴わないため、どういうスコッチエッグか実態は分からない。個人的にはスコッチエッグはあまり持ち歩きに適していないと思う」と完全に同意しているわけではない。

ただし、19世紀に著されてた諸レシピにはすでに家庭料理と紹介されている。つまり携行食だったものが、後に食卓を飾ったのではという仮説もありえる。調べれば調べるほど謎が謎を呼ぶ……。

インドから伝わったスコッチエッグ?
スコッチエッグは海外からの影響も受けているかもしれない。英ガーディアン紙に掲載された「世界のスコッチエッグ」という特集によると、 スコッチエッグによく似た食べ物が世界各地にあるという。中でもよくスコッチエッグの祖型とされるのが、インドの伝統ムーガル王宮料理ナルギシ・コフタだ。

ナルギシとはスイセンのこと。これは横半分に切ったナルギシ・コフタの断面が、スイセンの花の白と黄の彩りに似ていることに由来する。ムーガル王朝 (西暦1526〜1858年) ゆかりの古い伝承とされるナルギシ・コフタでは、そのスコッチエッグ風のゆで卵入りコフタ (ミートボールの一種) にカレーをかけて食べる。

現存するイギリスにおける19世紀のスコッチエッグの諸レシピでは、どれも温かいソースをかけている。1861年にロンドンで出版されたビートン夫人著『家庭管理の本』の1906年の新改訂拡張版に追加されたスコッチエッグの現存最古の写真を見ても、スコッチエッグを横半分に切ってトマトソースを敷くなど、ナルギシ・コフタの盛り付けとのつながりを感じさせる。

ロンドン発の日本式「カツカレー・スコッチエッグ」
世界の食文化を巡ってイギリスに里帰りしたのが、東ロンドンにある本格派焼き鳥屋「ジドリ(Jidori)」が考案して人気を博している、カツカレー・スコッチエッグだ。 これは、縦半分に切ったスコッチエッグを日本のカレーにつけて食べる、というパブスナックとしての創作スコッチエッグである。

同店主任シェフの松原駿太さんは、「イギリスではカツカレーが市民権を得ているため、日本式に仕立てたカツカレー・スコッチエッグを居酒屋料理としてイギリス人のヒップスター(流行に敏感な人)向けに提供しています」と、カツカレー・スコッチエッグを考案した動機を述べた。

焼き鳥屋だけに、ゆで卵を包むひき肉には鶏肉を使い、まさに「親子スコッチエッグ」だ 。和風仕込みのひき肉にはシソとネギを練り込んである。イギリスでは、スコッチエッグの肉と卵がうまく密着するよう仕上げることは、重要かつ難しい技術とされるが、ジドリの親子スコッチエッグは「親」と「子」の一体感が見事だ。

衣は「panko(パンコ)」としてイギリスにもすっかり浸透した日本の生パン粉を使うため、サクッとした食感が心地良い 。張りのあるつくね、とろける半熟卵が、衣の歯ごたえと相まって、口の中で三重奏を奏でる。 形も現在イギリスで一般的なテニスボールよりやや小さめの球体ではなく、珍しい卵型だ。

取り巻く歴史から最新レシピまで、今イギリスではスコッチエッグが熱い。スコッチエッグはどこから来て、どこへ行くのか? これからも、まだまだ進化し続けていきそうだ。
焼き鳥屋「ジドリ」のカツカレー・スコッチエッグ


(出典 news.nicovideo.jp)