実りの秋。ブドウやカキなど色とりどりの果物が店頭に並ぶ。果物のおいしさの特徴は、爽やかな甘味や酸味にある。さらには滑らかだったり、シャキシャキしたりといった歯触りもおいしさには欠かせない。ただし、果物には「甘い・酸っぱい」といった当たり外れがあるのも難点だ。果物の食べ頃とはどんな状態なのだろうか。

お菓子とは異なる果物の甘さ

 果物のおいしさといえば、まず甘いことである。この甘さはお菓子などの甘さと違って、爽快でさっぱりしており、たくさん食べても飽きることはない。その理由として、甘味を構成する糖の種類が異なることや、果物には水分が多く、酸味があることが挙げられる。

 果物の甘みは、ショ糖ブドウ糖、果糖、ソルビトールなどの糖類によるもの。糖の甘味は糖の種類によって異なる。

 ショ糖は砂糖の主成分で、お菓子などのなじみある甘さはショ糖によるものが多い。ショ糖の甘みを1とすると、ブドウ糖は0.6~0.7、果糖は1.2~1.7と甘味が異なる。果糖の甘みは糖の中でも強いが、キレのよい甘さなのである。また、冷たいほうが甘味を強く感じる。一方、ショ糖は甘味も強く、コクのある甘さだ。

 これら糖類の構成比は果物の種類によって異なり、それが果物の特徴的な甘さを生み出す。たとえば、果糖やブドウ糖が多く含まれると爽やかな甘さになり、ショ糖が多く含まれると濃厚な甘さになる。

 果糖を多く含む果物にはリンゴやナシ、ビワなどがあり、ショ糖を多く含むのはオレンジグレープフルーツなどの柑橘類やモモ、熟したバナナなどだ。イチゴブドウは、果糖とブドウ糖を半々ぐらい含む。

 同じ果物でも品種で糖の組成は変化し、風味が異なることもある。メロンショ糖を多く含み、濃厚な甘さが特徴だ。だが、同じメロンでもマスクメロンは、爽やかな甘さで、ブドウ糖や果糖が多く含まれることが知られている。

果物が熟すことで食べてもらうという生存戦略

「熟す」とは、果物が食べ頃になること。熟すと果物が甘くなるのは周知のとおりである。果実が成長している間は硬くて酸っぱいが、成長し終わると、色づき、それとともに香りが増し、甘くなる。果肉も柔らかくなり、酸味が減って食べ頃になる。

 このように果実が熟すのは、植物が子孫を増やし、分布を広げるためだ。植物は動けないので、種を鳥など他の生き物に運んでもらわなければばらない。そこで食べ頃の色や香りで動物をひきつけ、甘くておいしい果実を食べてもらう。硬くて食べられない種子を吐き出したり、糞をしてもらえば、種をばらまくことができる。秋に熟す果実が多いのは、冬鳥が多く飛来し、冬に備えてたくさん食べる動物も多いからだという説もある。

 イチゴリンゴブドウスイカ、日本ナシなどでは、果実が成長して食べ頃になるまで待って収穫するが、メロンキウイマンゴー、西洋ナシなどでは、追熟が必要だ。追熟とは、収穫した果物を食べ頃になるまで待つことを指す。傷みやすいバナナや桃は未熟なものを収穫し、輸送中に追熟させて食べ頃にする。熟してから出荷するとあっという間に食べ頃を過ぎてしまうためだ。

風味を変化させるエチレンガスは諸刃の剣

 成熟期になると、果実はエチレンガスを発生する。エチレンガスは、果実の成熟を促す役割を担っている。リンゴバナナといっしょにキウイフルーツを保存するとよいとよくいわれるのは、リンゴバナナがエチレンガスをたくさん出すことで、キウイフルーツが早く甘く柔らかくなるからだ。エチレンガスが発生すると、細胞内の酵素の活性が高まり、色素成分や芳香成分が合成される。酵素の作用で果肉も柔らかくなる。

 成熟の過程で糖の構成も変化する。光合成によりできたブドウ糖は果実に蓄積されるが、成熟している間に果糖などの他の糖に変わるためである。追熟では、蓄えられたデンプンが分解し、他の糖になる。

 果実の酸味は、リンゴやモモに含まれるリンゴ酸柑橘類に含まれるクエン酸といった有機酸である。成熟している間に糖分が増加する一方で、有機酸は減少し、酸味は和らぐ。こうして甘味や酸味、香り、食感などのバランスが整い、果物は食べ頃を迎える。

 だが、果物を置いておけば、風味は落ちていく。エチレンガスは収穫後も発生しつづけ成熟を促す一方、劣化も促す。色は悪くなり、果肉もぐちゃぐちゃになる。酸味も少なすぎると、いくら甘くてもぼけた味になってしまう。

食べ頃を見極める、色で、香りで、機器で・・・

 果物は、成熟の過程や保存中にどんどん変化していくわけだ。食べ頃に食べるのが一番おいしいのだが、おいしいかどうかは食べてみるまで分からないのが難点となる。一般的に食べ頃は果物の色や香りで判断する。スイカなら叩いて、ポンポンと弾むような音ならシャキッと歯ごたえがあって食べ頃だ。バナナは黒いスポットが出てきているかを見る。このように、いろいろな見分け方がある。

 果物の品質評価には、一般的には甘味の指標として糖度が、また酸味の指標として酸度が使われる。近頃では店頭に糖度が表示されていることもあるので、この言葉を聞いたことある人も多いことだろう。

 糖度は、糖度計で測定する。水に溶けている砂糖などの固形分が多いほど、光の屈折率が高くなることを利用した機器だ。測定は簡単だが、果汁を測った場合、糖度は有機酸など糖以外の成分も含めた含量を示し、厳密には「糖の量」を示す値にはならない。また、ショ糖ブドウ糖、果糖などすべての糖を含んだ値となる。果物中の固形分のほとんどは糖分であり、甘味に関する糖の量と糖度は相関しているので、甘さの目安となるのである。

 果物によっては、酸味成分など糖分以外の成分が多いこともあるので、糖度が高くても必ずしも甘くないことがある。特に果物の種類が違うと、糖類以外の組成が異なり、糖度を単純に比べることはできないので注意が必要だ。

果物の「当たり外れ」が減ってきた

 果物の糖分を簡便に分析する他の尺度や方法がないため、糖度や糖度計は広く使われている。屈折の仕組みを利用した糖度測定では果汁が必要だが、近年では、果物の非破壊分析技術の進歩が目覚ましい。

 たとえば、近赤外線を利用して糖度や酸度が測定されている。また、可視光線を当ててリンゴが蜜入りかを見分けたり、画像処理により食べ頃の色を見分けたりできる。分析機器の小型化も進み、はかりに果物を載せただけで糖度や酸度を測定できるものや、ポケットタイプの非破壊糖度計も開発されており、農場などの現場でも簡便に果物の品質を評価できるようになってきた。

 そういえば、近頃は果物を買っても「外れだ」と感じることは、以前よりも減ったような気がする。日本の果物は甘味が強く、品質がよいことで知られている。それは、品種改良や栽培技術の進歩によるものである。

 だが、国産の果物のみならず、輸入の果物でも外れが少ないのは、果物の検査技術の進歩によることもあるのだろう。今では、食べなくても野菜や果物のおいしさを人工知能で判定するスマホアプリも登場しているとか。近い将来、食べ頃を見逃すこともなくなり、果物に当たり外れがあるのは過去の話になるかもしれない。

 11月ミカンリンゴの出荷が増えてくる。今年の早生ミカンは味がよいそうだ。果物をおいしく味わい、実りの秋を満喫したい。

 
食べ頃を迎えた数々の果物。果物は、狭義には木になる果実を指すが、広義には草本性のパイナップルやメロンも含める。


(出典 news.nicovideo.jp)