「お粥(おかゆ)」と言えば、1月7日の朝の「七草粥」や、風邪をひいて食欲が落ちているときに食べるお粥がよく知られているが、実は東アジア東南アジアでは一般的な食事として親しまれている。それだけではない。意外にもヨーロッパアフリカでも、さまざまな材料・調理法で人々の生活に溶け込んでいる。

 お粥は、体調を崩した時の食事としてだけでなく、日常の食事として取り入れても、低カロリーヘルシーな料理なのだ。それでいて加える食材の組み合わせ次第で栄養も一定程度取り入れることができる。

 そこでコロナに負けない免疫力を保持することが求められる今だからこそ知っておきたい栄養食としてのお粥の実力と、どのように調理して食べるのが日々の健康づくりに役立つのかを、薬樹薬局の管理栄養士、大塚真結さんに教えてもらった。

お粥の栄養価と利点

 生の米に多く含まれているのはβデンプンという成分で、これはそのままでは非常に消化しにくいもの。だが、水を加えて加熱すると、消化吸収しやすいαデンプンに変化する。私たちが米を炊くのはそのためだ。通常ご飯を炊く時の水分量より多めの水でやわらかく炊いたものがお粥になる。

 お粥に含まれる栄養素で最も多いのは炭水化物だ。炭水化物たんぱく質や脂質と比較して、胃での滞留時間が短いので消化器にかかる負担が少ない。つまり消化がよい。だから、体力が落ちているときの食事に適しているのだ。またご飯よりも水分が多いので咀嚼の回数が少なくても食べられること、飲み込みやすさも特長のひとつだ。温かいお粥を食べることで、体温が上がって血流が良くなる効果も見込まれる。

「お米はふだんの生活で親しんでいる食材ですし、お粥は赤ちゃんの離乳食にも使われますから、ほっとした気持ちになれる、安心させてくれる食べ物です。熱がある時でも食べやすく、お腹の具合が悪い時にも胃腸に負担をかけることなくエネルギーを摂取することができます。口内炎や歯のトラブルで噛むことが難しいとき、嚥下(飲み込み)しにくい時にもおすすめです」

濃度で変わるお粥の種類

 お粥には「○分粥」という分類と、「○倍粥」という分類との2種の分け方がある。「○分粥」は「全粥」を基準にした米と水の量の割合を表している。ちなみに「全粥」は米と水との割合が米1:水5、「7分粥」が米1:水7、「5分粥」が米1:水10、「3分粥」になると米1:水20となる。要するに「〇分粥」の数字が小さいほど水分量が多くなる。これは全粥に重湯を足して量を調節する調理法を用いる病院や施設などで使われることが多い。

「○倍粥」は米に対する水の割合を表しており、数字が大きくなると水分が多くなる。5倍粥(米1:水5)は「全粥」、7倍粥(米1:水7)は「7分粥」、10倍粥(米1:水10)は「5分粥」となる。家庭で調理するときには、こちらがわかりやすいかもしれない。

 米1合は180ccで重さにして150g。料理でよく用いる計量カップは、一杯で200ccなので、間違わないように注意しよう。米の計量カップで水も測れば、○倍は正確になるだろう。5倍粥(全粥)を作るには計量カップに半分の米に対し、水はカップ2.5杯となる。

 水分が多い10倍粥はサラサラしているので嚥下しにくい時などに食べやすく、5倍粥はしっかりしているので食べ応えがあり、その分、エネルギー量を多く摂取できる。体調に応じて水を足して調節するといいだろう。

「お粥の食べやすさは水分量によるところが大きいのですが、おいしさという観点では、舌触りや柔らかさも大切です。お粥の軟らかさには加熱後の経過時間が関係しています。たとえば5倍粥(全粥)は保温時間が長く、温度が高いほど硬くなります。すぐに食べるのであればおいしいのですが、体調を崩している人に『後で温めて食べてね』といって作り置きしておく時や、時間をかけてゆっくり食べる方には、水分が多めの7倍粥(7分粥)のほうが舌触りや軟らかさが保たれてよいと思います」(大塚さん)

病気と闘う時のお粥

 ここで病気の際の食事としてのお粥について考えてみたい。

 発熱している時はエネルギーの消費が高まっている。具合の悪さから食事を多く取れなくなってしまうことがあるのだが、病気と闘う上でエネルギー補給はどうしても必要だ。では、発熱によってどれくらいのエネルギーが消費されているのだろうか。病状や体格など個人差が大きいものだが、あくまで1つの目安として、下記のエネルギー量を参考にしてもらいたい。

《発熱時、1日に必要なエネルギー
男性 18~74歳:約2,460kcal
   75歳以上:約2,150kcal
女性 18~74歳:約1,880kcal
   75歳以上:約1,700kcal
(*計算式:基礎代謝量[kcal/日]×活動係数×ストレス係数 
 活動係数:ベッド上安静時 1.2、ストレス係数:熱38℃ 1.4)

 文部科学省の食品成分データベースによれば、炊いたご飯が100gあたり168kcalなのに対し、全粥(米20g相当)は71kcalだ。お粥の場合、同じ重量のご飯と比べ、エネルギー量は半分以下になる。お粥だけでは病気と闘うための十分なカロリーを得るのは難しそうだ。

「病状に応じてですが、食べられるようになったら卵や柔らかく煮た魚を加えたり、濃いめのお粥にしたりするなど、回復のためにしっかりエネルギー補給をしていただきたいです。レトルトなど市販のものを食べるときも、成分表示表のカロリーチェックしてエネルギー不足に気をつけてください。

 もしもお粥やご飯を受け付けない状態や、あるいはお粥を好まれない人の場合は果物の缶詰もおすすめです。のどごしが良くて素早くエネルギー補給することができますし、万一の時の備蓄も可能です。他にも茶碗蒸しゼリーアイスクリームなど食べやすく感じるものでエネルギー補給をしてください。体調が悪いときには『食欲に合わせる』ことが大事です。消化の際に負担がかかる脂質や食物繊維の多いものは控えつつ、『これなら食べられる』というものを選んでいただきたいと思います」(大塚さん)

レトルト粥の上手な活用法

 現在、レトルトパックや電子レンジで温めるタイプフリーズドライなど、簡単に食べられる様々なお粥が売られている。調理に時間を取られることなく簡単に食べられて便利だが、「食べても物足りない」、「すぐにお腹がすく」と感じることがある。あるレトルト粥の販売メーカーによると、高齢者の日常食や体調不良時、非常食、ダイエット、初期の離乳食など様々なシーンに対応できるように水分量の多い10倍粥に設計してあるそうだ。前述したように、発熱時などは結構なエネルギーを必要とする。具合が悪いから、すぐ食べられるレトルト粥にすると、カロリー不足でなかなか回復しないということにならないだろうか。

「急な体調不良で数日間食べることは問題ないと思いますが、習慣的に食べているとエネルギー量が足りなくなり、体重減少につながると考えられます。高齢者や病気の人が全粥を食べられる状態なのに、手軽だからとレトルト等の10倍粥を選んでしまうと、栄養不足に陥ることもあるかもしれません。お粥は全般的に炊いたご飯よりもエネルギー量が少ないことを念頭に入れておいていただきたいと思います。

 しかし、お粥を自分で作るとなると時間も手間もかかります。そこでレトルトのお粥に自宅で炊いたご飯を足したり、ごま油などオイルを加えたりするなど、アレンジしてエネルギー量をアップするといいでしょう。一方でレトルト粥は味やトッピングの種類が多いので、自分の好みに合わせて食べ飽きないように買い置きすることもできます。長期保存が可能ですから、普段から急病や災害に備えて備蓄しておくとよいと思います」(大塚さん)

普段の生活にも取り入れたいお粥

 病中にはカロリー不足に気をつけたいお粥だが、カロリーの低さと消化の良さは普段から生かせる。冬はクリスマスお正月など、おいしいものを食べる機会が増えて、うっかり食べ過ぎ・飲み過ぎになることも多い。そんな時、翌日の食事をお粥にして胃腸をいたわりたい。大塚さんは「楽しむときはしっかり楽しんで、後からやさしくエネルギー量の少ないお粥で調整するのもいいと思います」と話す。

 大塚さんが栄養相談でお粥食を提案したケースを紹介してもらった。健康診断で肥満と診断されていた60代の男性が、減量を目指して月に一度、薬局に来て栄養相談を受け、半年で目標体重まで減らすことができた。大塚さんが1カ月ごとの体重変化を評価すると激減した月があり、聞いてみると歯のトラブルがあって思うように食べられなくなったという。そこで、病院での血液検査の結果を見せてもらうとLDLコレステロール急上昇していた。

「何か心当たりがありませんか? とうかがってみると、体重が減り続けてめまいやふらつきが出て、なんとか食べなきゃと卵入りの蒸しパンを毎日召し上がっていらっしゃいました。卵が入っているからタンパク質も取れるし、やわらかくて食べやすいので選んだとのことでしたが、LDLコレステロールの上昇となると卵が影響しているように思いましたので、何か代わりのものがないかと考えました。普段からコンビニで食事を購入される方でしたので、コンビニならレトルト電子レンジでチンするタイプのお粥も売っていますから、蒸しパンの代わりにお粥を提案しました。また、お粥に合うおかずやエネルギー量が低下しないような献立のご提案もしました。エネルギー量や栄養価の違いなどを説明したところ、驚かれていました」(大塚さん)

 自己判断で習慣的に食べているものを変えると、年齢や体質によっては過剰になったり不足になる栄養素があり、思わぬ結果をもたらすことがある。管理栄養士による栄養相談では、その人の体の状態や生活スタイルに合わせた提案と共に「実行できたか」「なぜできなかったか」というフォローアップもしてもらえる。体調の不安や病気の備えに、ぜひ栄養の専門家に相談してみてはどうだろうか。大塚さんが勤める薬樹薬局では、新型コロナウイルスの感染対策をとりながら、栄養相談を受け付けている。

仏教の教えにもお粥

 最後に、大塚さんが古くから日本の仏教でお粥の効能が伝えられてきたことを教えてくれた。禅宗の1つである曹洞宗の開祖・道元が1246年(寬元4)頃に撰述した『赴粥飯法』(ふしゅくはんぽう・僧堂における食事作法を細かく定めた規則を文書化したもの)の中に、「粥有十利(しゅうゆうじり)」というお粥の10の効能を記した文章がある。

1.色(しき) 血色を良くする
2.力(りき) 力がみなぎる
3.寿(じゅ) 寿命を延ばす
4.楽(らく) 苦痛が無い
5.詞清弁(ししょうべん) ことばがはっきりする
6.宿食(しゅくしょく) 胸のつかえが治る
7.風除 風邪を除く。風邪が治る
8.飢消 飢えを消す
9.渇消 渇をいやす
10.大小便調敵 便通が良くなる

 770年以上前から体調を整えると伝えられてきたお粥。病気と闘う時も、日常生活でも、上手に取り入れたい伝統食なのだ。



(出典 news.nicovideo.jp)